動物の検査や処置で欠かせない麻酔ですが、この麻酔中は生体情報モニタ(心電モニタ)を用いて動物の状態をモニタリングします。
生体情報モニタには様々な情報が表示されており、そこから動物の状態を把握していきます。
この記事では、
・生体情報モニタの見方
・生体情報モニタの注意点
・五感を使ったモニタリング
などについて、愛玩動物看護師専門の当サイトが詳しく丁寧に解説していきます。
最近麻酔モニタリングを担当している方や、学校で学んだけど忘れた!という方は是非最後までご覧ください。
また、生体情報モニタの見方の前に麻酔の起源について少しふれておきましょう。
麻酔の起源
いきなりですが、皆さんは麻酔の起源についてご存じでしょうか。
近年では当たり前のようにある麻酔ですが、その昔、麻酔が無い頃はとんでもないやり方で手術をしていたのでした。
17~19世紀の外科手術の教科書によると、当時は麻酔なしで患者の身体を切り、脳にメスを入れたり、足を切断していたそうです。
さらに、術後の死亡率は80%以上で、死因多くは「術後ショック、出血多量、感染症」でした。
※https://jp.quora.com/より画像引用
写真のように無理やり押さえつけられて、耐え難い痛みを味わうことから、手術を受けるのが嫌で自殺した人がいるほどです。
このような拷問に近い医療行為は、「暗黒の時代」と呼ばれているそうです。
ほんの少し考えただけでもゾっとするようなことですが、ありがたいことに私たちが生きている現代では麻酔があり、「寝ている間に処置が終わる」ということが当たり前になっています。
しかし、それが出来るのは麻酔があるからです。
つまり、手術中に麻酔の効果が無くなると暗黒の時代と同じことになるわけですね。
ではその麻酔が切れないようにするために、麻酔中の様子はどのように把握するのかというと、「生体情報モニタ」を使うのです。
話は少しそれましたが、本題の生体情報モニタの見方について見ていきましょう!
生体情報モニタの見方
生体情報モニタには、
- HR(心拍数)
- SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)
- EtCO2(呼気終末二酸化炭素分圧)
- BP(血圧)
- BT(体温)
- VT(一回換気量)
が表示されています。
各用語やそれぞれの意味があまりという方はこちらの記事をご参考にしてみてください。
実際の生体情報モニタの画面はこのようになっています。
※フクダ エム・イー 工業株式会社様より画像提供 AM140の動物用生体情報モニタサンプル画像
画面右側にはHRなどの数値が、画面真ん中には波形が表示されています。
麻酔モニタリングでは、数字をチェックするのはもちろんのこと、波形もしっかりと確認します。
表示のレイアウトやHR・SpO2等の順番は、生体情報モニタのメーカーごとで異なる場合があります。
ただし、多くのメーカーではこの表示が一般的です。
それぞれ細かく見ていきましょう。
HR(心拍数)
HRは、心拍数と心電図が表示されています。
麻酔中に起こる不整脈はここに現れます。
心電図の表示されるスピードが速いので見逃さないように注意が必要です。
SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)
SpO2は、酸素飽和度をパーセントで表示され、PR(pulse rate)という脈拍数と真ん中にはパルスオキシメーターの波形があります。
パルスオキシメーターの波形によって、様々なことが分かるのですが、それはまた別の記事で解説したいと思います。
心拍数は心臓の拍動回数のことです。
脈拍数は抹消血管の拍動回数です。
ヒトでいうと、心臓の音を聴いて測定したのが心拍数で、首にある血管を触って測定したのが脈拍数となります。
EtCO2(呼気終末二酸化炭素分圧)
EtCO2は、mmHgという単位で数値が表示されていて、下にはRRという呼吸数と真ん中にはカプノグラムがあります。
今後麻酔モニタリングを詳しく学んでいくときには、このカプノグラムがとても重要になってきます。
例えば波形によって、自発呼吸、リーク、低喚起などが分かりますが、こちらも別の記事で詳しく解説したいと思います。
BP(血圧)
BPは、収縮期血圧 / 拡張期血圧 / 平均動脈圧で数値が表示されています。
メーカーによっては、左側に血圧の波形も表示されています。
収縮期のことをSYSと書いてあったり、SBPとなっている場合もありますが、どちらも同じでこれもメーカーによって異なります。
BT(体温)・ISO
BT・ISOは、体温と吸入麻酔薬の濃度が表示されています。
麻酔中は体温が低下するため、定期的なモニタリングが必要です。
また、麻酔濃度も必ず確認しないといけません。
生体情報モニタの注意点
生体情報モニタからは、麻酔中の患者(動物)の状態を数値や波形として教えてくれます。
- 痛みを感じて心拍数が上昇
- 換気が悪くてEtCO2の値が増加
- 出血による血圧の低下
それらの数値を機械が常に測定してくれます。
しかし、そんな万能に思える生体情報モニタでも気を付けないといけない注意点があります。
それは、麻酔看視係がモニタリングしてないと意味が無いということです。
麻酔モニタリングは絶え間ない看視が必要
麻酔モニタリングを行う麻酔看視者は、常に患者の状態を把握していないといけません。
骨を削る手術で執刀医が作業している中、麻酔が切れて耐え難い痛みと共に起き上がります。
これは拷問と言っても過言ではないでしょう。
そうならないためにも、生体情報モニタ等の機器使ってモニタリングしないといけないのです。
五感を使ったモニタリング
絶え間ない看視をするためには、動物看護師自らの五感も使います。
というのも機械だけでは測定できない情報がいくつかあるからです。
例えば、
- 麻酔深度
- 筋肉の緊張度
- 瞳孔のサイズ
- 可視粘膜色
- CRT
- 心音
- 肺音
- 動脈蝕知
これらは、「目で視て、耳で聴いて、手で触って、鼻で嗅いで」をしないと分かりません。
動物が今どのような状態なのかを、様々な方法で何としてでも情報を得ないと安全な麻酔にはなりません。
生体情報モニタが無くても麻酔モニタリングは出来る!
ここまで生体情報モニタの見方や注意点について解説をしてきましたが、極論を言うとモニタが無くてもモニタリングできるようになりましょう。
というのも、生体情報モニタから得られる「心拍数、血圧、体温」などの多くは、動物看護師の五感を使って把握できます。
大昔は、人工呼吸器や生体情報モニタが無かったわけですから、五感を使って確かめることは可能です。
これらが出来てさらに、生体情報モニタというテクノロジーを合わせれば、より安全に麻酔モニタリングが出来ることはお分かり頂けると思います。
患者から直接情報を得よう
生体情報モニタに表示される数値などよりも、患者に直接触ったり聴いたりする情報の方がもっとも早く信頼できる情報となります。
心拍数を例にすると、
- 電極クリップのずれ
- 手術による患者の体動
- 電気メスの使用時
などでは心拍数が正しく表示してくれないときがあります。
このような時は、直接聴診したほうが早く確実に心拍数が分かりますよね。
ですから、数値や波形を常に見るのも大切なのですが、患者から直接得られる情報が最も安全で早いということも忘れてはいけません。
まとめ
生体情報モニタには、
- HR(心拍数)
- SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)
- EtCO2(呼気終末二酸化炭素分圧)
- BP(血圧)
- BT(体温)
- VT(一回換気量)
を数値や波形として表示してくれます。
麻酔モニタリングを行う上では、これに加えて動物看護師の五感を使い、
- 麻酔深度
- 筋肉の緊張度
- 瞳孔のサイズ
- 可視粘膜色
- CRT
- 心音
- 肺音
- 動脈蝕知
なども必ず確認します。
麻酔モニタリングは患者の命を左右するとても大切な仕事です。
正しい知識を持って絶え間ない看視でモニタリングしていきましょう!
麻酔中の起こるトラブルを防ぐ方法も合わせてご覧ください!