動物病院で働き始めてすぐに「薬剤」を取扱うようになります。
外来で処方するお薬や入院で使う注射薬など。
学校で習ったけど、いざ実践してみると分からないことだらけだと思います。
例えば、
- 薬剤にはどんな種類があるの?
- 投与方法は?
- 保存方法は?
- 副作用は?
- 取り扱い方法は?
しかも、学校で習わないようなこともやらないといけなかったり、
先輩に今さら聞きにくいし・・・
そんなお悩みを愛玩動物看護師専門の当サイトが「薬剤の基本をまとめておさらい」します。
丁寧に詳しく解説していくので、ぜひ参考にしてみください!
薬の「処方・調剤・投与」は獣医師のみが行える
まずは薬に関する法律をおさらいしましょう。
薬の処方や調剤、投与は「獣医師のみ」が行える独占業務になります。
獣医師法の第十八条(診断書の交付等)でこのように定められています。
獣医師は、自ら診察しないで診断書を交付し、若しくは劇毒薬、生物学的製剤その他農林水産省令で定める医薬品の投与若しくは処方若しくは再生医療等製品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第九項に規定する再生医療等製品をいい、農林水産省令で定めるものに限る。第二十九条第二号において同じ。)の使用若しくは処方をし、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証明書を交付し、又は自ら検案しないで検案書を交付してはならない。ただし、診療中死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。
出典:獣医師法 | e-Gov法令検索
簡単に言うと、薬は獣医師が診察をしてから、獣医師自身で「使用もしくは処方する」必要があるということです。
動物看護師が「処方・調剤・投与」をすることはできませんので必ず覚えておきましょう。
ちなみに、 第十八条(診断書の交付等)の規定を違反した場合は、「二十万円以下の罰金に処する」となります。
一 第二十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の罰金に処する。
二 第二条の規定に違反して獣医師又はこれに紛らわしい名称を用いた者
第十八条の規定に違反して診断書、出生証明書、死産証明書若しくは検案書を交付し、又は劇毒薬、生物学的製剤その他農林水産省令で定める医薬品の投与若しくは処方若しくは再生医療等製品の使用若しくは処方をした者
出典:獣医師法 | e-Gov法令検索,より一部抜粋
ただし、動物看護師の業務には「獣医師指示のもとで調剤の補助や経口投与、飼い主に説明、在庫管理」など薬に関わることが多いので、法令やこの後お話しする薬の投与方法などは必ず覚えておきましょう
愛玩動物看護師法では投与が可能になる
現在は上記のように、動物看護師が薬の投与を行うことはできませんが、
2022年(令和4年)5月1日に施工される「愛玩動物看護師法」では、愛玩動物看護師が獣医師指示のもとで、投与を行えると規定されています。
詳しくは下記をご参考にしてください。
※参考リンク:愛玩動物看護師法に関するQ&A:農林水産省 (maff.go.jp)
なのでそれまでに、しっかりと薬の正しい知識を身に付けておきましょう。
与薬の「6つのR」を確認しよう
与薬とは、「病気の症状に合わせて薬剤を与える」ことです。
誤薬防止対策のために、薬を取扱うときには「6つのR」を必ず確認します。
【6つのRとは】
- 正しい患者(Right patient)
- 正しい薬剤(Right drug)
- 正しい目的(Right purpose)
- 正しい用量(Right dose)
- 正しい用法(Right route)
- 正しい時間(Right time)
つまり、「投与する患者を間違えていないか、そもそも選択した薬剤が合ってるか、その治療にその薬剤で合っているか、その量(単位)で合っているか、投与する方法はそれで合っているか、そのタイミングや速度で合っているか」ということになります。
万が一に、これら一つでも間違えると動物の生命に危険が及ぶこともあります。
しかも、今後は動物看護師が国家資格化になって、患者へ投与するのは「愛玩動物看護師」になります。
そして、最終的な責任は愛玩動物看護師です。
薬剤の取り扱いは細心の注意を払いましょう。
薬剤の投与方法
薬剤の投与方法は細かく分かれています。
詳しく見ていきましょう。
点眼
点眼は眼に薬剤を投与する方法です。
やり方は、片手で顎を持って、もう片方の手で上眼瞼(上まぶた)を指で広げて点眼します。
もし、薬剤と軟膏を投与する場合は、「液剤⇒軟膏」の順番で行います。
点眼前に眼の周りはキレイにしておきましょう。
点耳
点耳は耳に薬剤を投与する方法です。
点耳する方の耳を上にして、点耳薬を滴下します。
犬や猫が保定できない場合は、可能な限り耳を広げて奥に到達するよう滴下しましょう。
耳から流れてきた点耳薬はふき取ります。
塗布
塗布は皮膚に薬剤を塗ることで生体内に吸収させる方法です。
塗布する部位の被毛をかき分けたり、バリカン等で皮膚が露出するようにします。
塗り薬は適用部位が決められている場合もあるので添付文書を確認しましょう。
また、薬剤を舐めると有害なものもあるので、必要に応じてエリザベスカラーを使います。
経口
経口は薬剤を口にいれて消化管から吸収させる方法です。
薬剤の形は様々ですが、一般的には「錠剤、カプセル、散剤、液剤」があります。
犬座や立位にし、薬剤をすばやく舌の奥に乗せて喉をさすります。
舌を出したり、舐めるようなしぐさがあれば、飲み込んでいる可能性が高いです。
抗生剤など苦いものは嫌がることが多いので、ご飯に混ぜたり、投薬補助薬等を使う場合もあります。
また、薬剤は投与時間が関係することもあり、
食前薬(食事の約30~60分前)、食後薬(食事の約30分前)、食間薬(食後約2時間)なのかを投与前に必ず確認しましょう。
経口の吸収径路は、「口>消化管(胃・小腸・大腸上部)>門脈>肝臓>静脈>全身循環」の順です。
薬剤の吸収速度は、「静脈内投与>筋肉内投与>皮下注投与>経口投与」の順です。
皮下注射
皮下注射は皮下組織に薬剤を投与する方法です。
接種部位は主に「頸部背側、背部、腰部」の皮下組織を用います。
注射部位の皮膚を持ち上げ、テント状にして穿刺します。
そのとき、シリンジの内筒を少し引いて、血液が入ってこないことを確認してから薬剤を投与します。
皮下注射の吸収径路は、「皮下組織>毛細血管>静脈>全身循環」 の順です。
筋肉内注射
筋肉内注射は筋層に薬剤を投与する方法です。
接種部位は「上腕部、腰背部、大腿部」の筋肉組織を用います。
刺入角度は皮膚より45度~90度にします。
投与前にシリンジの内筒を少し引いて、血液が入ってこないことを確認してから投与します。
筋肉内注射は指定された接種部位で行い、大きな血管や神経を損傷しないように細心の注意を払いましょう。
筋肉内注射の吸収径路は、「筋肉組織>毛細血管>静脈>全身循環」 の順です。
点滴・静脈内注射
点滴・静脈注射は静脈内に薬剤を投与方法です。
接種部位は「頸静脈、橈側皮静脈、外側伏在静脈、大腿静脈」の血管を用います。
手袋を着用し、保定者の駆血で膨張した血管内に注射針を刺入させて、血液の逆流後に駆血を解いてから薬剤を投与します。
静脈内注射は薬剤の効き目が最も早い投与方法です。
また、直接血管内に投与することから、無菌的操作など細心の注意が必要です。
点滴・静脈内注射の吸収径路は、「静脈>全身循環」 の順です。
その他の経路
そのほかの経路は、
・鼻腔投与
・直腸投与
・吸入投与
・皮内注射
・局所注射
・腹腔内注射
・硬膜外注射
などがあります。
それぞれ「目的、対象、作用時間」の違いがあるので、必要に応じて選択します。
薬剤の副作用に注意しよう
薬剤には主作用と副作用があります。
主作用とは「目的の作用」のことであり、
副作用は「目的以外の作用」のことです。
例えば、
「鎮痛剤のロキソニンを飲んだら、お腹が痛くなった」という場合は、
痛みを和らいでくれるのが主作用で、お腹が痛くなったというのが副作用になります。
ロキソニンの例では、ロキソニンの成分が消化管に影響を与えることから、お腹が痛くなってしまうのです。
ただし、副作用は個体差があるので、必ず起きるわけではないということも覚えておきましょう。
また、身体がアレルギー反応(過敏反応)を起こす、「アナフィラキシー」について知っておく必要があります。
一度は聞いたことある言葉ですが、このアナフィラキシーは命に危険を及ぼす可能性があります。
アナフィラキシーは、薬の成分によってアレルギー反応が引き起こされ、「顔面の浮腫、皮膚の発疹、吐き気、ふるえ」などの症状が現れます。
さらに重症の場合は「血圧の低下、失神、意識消失」などが起こり、このことを「アナフィラキシーショック」と言います。
このショック状態は直ちに治療をする必要があるので、すぐに獣医師へ報告しましょう。
薬剤の取り扱い方法
薬剤の取り扱いには様々なルールがあります。
例えば、
- 保存方法
- 保存温度
- 投与径路
- 配合禁忌
- 希釈方法
- 投与速度
- 有効期限
などがあります。
【保存方法】では、遮光保存と指示されている場合は、光に当たらないように遮光袋にいれて保管します。
【保存温度】では、常温15~20℃、室温1~30℃、冷所15℃以下と決められています。
薬剤によっては、「凍結を避けて2~8℃で保存」のように具体的に指定されていることもあります。
参考リンク:アストラゼネカ社ワクチンの特性について 総括
【投与径路】では、「静脈内投与のみ」や「●●内投与は行わないこと」など指定されている薬剤も多々あります。
【投与速度】では、例えばカリウム製剤は「急速静注」すると不整脈や心停止を引き起こす可能性があったりと、
薬剤によって投与速度が異なる場合もあるので注意しましょう。
また、薬剤を取り扱う際は必ず「添付文書」を確認してください。
まとめ
薬剤の基本は以下の通りです。
- 薬の「処方や調剤」は獣医師のみが行える
- 獣医師指示のもとで動物看護師が調剤の補助をすることはある
- もうすぐ国家資格になる愛玩動物看護師法では、獣医師指示のもとで薬剤の投与が可能
- 薬剤は「6つのR」を必ず確認する
- 薬剤の投与方法は分かれている
- 薬剤の副作用や取り扱いには十分注意する
犬・猫の治療や検査に必ず必要な薬剤ですが、便利な反面で取扱い者の「知識・技術」が必要な物になります。
動物看護師は薬剤に関わるシーンがとても多いので、しっかりと「知識・技術」を身に付けるようにしましょう。
また、投与方法などをカルテ用語で指示されることもあるので、下記の「カルテ用語まとめ」もご参考にしてください。
コメント