犬や猫においては、輸血をしなければいけないタイミングがしばしばあります。
この記事では、輸血を行う理由や副反応、モニタリング項目についてお伝えするとともに、輸血製剤の種類についても愛玩動物看護師専門のPVNPortalが詳しく丁寧に解説しています。
犬や猫の輸血をする機会は突然やってきます。
あわてずに対応できるよう、しっかり学ぶようにしましょう。
犬や猫に輸血を行う理由
犬や猫に輸血を行うときは、
- 凝固異常;血を固めることができない状態
- 血小板障害ならびに血小板減少をともなう貧血
- 重度の外傷や出血
などがあります。
また、低タンパク血漿のときにも行うことがあります。
輸血療法は、一時しのぎの対症療法であり、根本的治療ではありません。
以下でお伝えする副反応を伴う治療であることを認識する必要があります。
輸血の副反応
輸血には、救急療法として生命をつなぐメリットがありますが、いくつかのデメリット(副反応)もあります。
犬においては輸血を行ったうちの3.3~25%が、猫においては1.2~7.7%の症例に副反応が生じたと報告されています。
副反応には、
- 免疫性急性反応
- 免疫性遅延性反応
- 非免疫性急性輸血反応
- 非免疫性遅発性輸血反応
があります。
輸血副反応が生じた場合は死に至る可能性があるため、素早い対応が必要となります。
すなわち、副反応の兆候を認めたらまずは輸血スピードを落とす、もしくは中止して対応します。
そして、それぞれの副反応に対しての速やかな治療を行います。
副反応をなるべく起こらないようにするために、あらかじめ血液型を判定したり、クロスマッチテストを行うこと、また適切な監視下(ICUにて呼吸状態や体温、粘膜色をチェックなど)における輸血をする必要があります。
ドナーとレシピエントの適合性を確認する輸血前の検査のことです。
詳しくは別記事で解説したいと思います。
免疫性急性反応
免疫性急性反応は、輸血直後~数時間以内に生じる副反応のことで、
- 非溶血性発熱反応
- 急性溶血性反応
- アレルギー反応
- 輸血関連急性肺障害(TRALI)
があります。
症状としては、
- アナフィラキシー
- 顔面腫脹
- 肺水腫
- 低血圧
- 血色素尿(溶血)
- 循環血液量過剰
- 発熱
- 蕁麻疹
などがあり注意が必要です。
非溶血性発熱反応
非溶血性発熱反応は、もっともよく起こる反応であり、輸血中もしくは直後に1度以上の体温の上昇が認められる反応です。
通常は軽度で自然に戻ることが多いです。
急性溶血性反応
急性溶血性反応は、Ⅱ型過敏症による反応であり、ドナーの赤血球に対する抗体が存在していることが原因です。
発熱や嘔吐、ヘモグロビン血漿などを引き起こし、急性腎障害やDICとなり死の転帰をとる場合もあります。
アレルギー反応
Ⅰ型過敏症であるアレルギー反応は、軽度から重度、発現時間も数分から数時間後と多岐にわたる症状を呈します。
蕁麻疹や浮腫、紅斑などが主な症状であり、全身または局所的に生じます。
輸血関連急性肺障害
輸血関連急性肺障害とは、呼吸困難や低血圧などの症状を生じる、非心原性肺水腫(心臓以外の原因で生じる肺水腫)のことです。
犬や猫での報告はさほど多くはないですが、注意が必要です。
免疫性遅延性反応
免疫性遅延性反応には、
- 遅発型溶血性反応
- 急性炎症と組織障害
- 輸血後紫斑
があります。
遅発型溶血性反応は、輸血24時間(通常3~5日)以降に起こります。
ミスマッチ輸血により生じることがあり、ヘモグロビン尿や黄疸が出ることがあります。
非免疫性急性輸血反応
ドナー血液の不適切な扱いや保管、投与によって生じます。
また、抗凝固剤を過剰投与したり、輸血のスピードや量が適切でないことなども原因となります。
非免疫性遅発性輸血反応
ドナー血液による感染症により生じます。
ドナー選定時には、感染症スクリーニングや定期的な寄生虫予防が必要となります。
犬猫の輸血中のモニタリング項目
輸血中の患者のモニタリング項目は、
- 心拍数
- 呼吸数
- 体温
- 血圧
- 可視粘膜
- CRT
- 浮腫/嘔吐等の有無
になります。
最初の1時間まで最低15分おきにモニタリングします。
それ以降は最低30分毎にはモニタリングをしましょう。
動物看護師が集中的にモニタリングし、5分おきに患者のバイタルを測定するのが理想です。
もし、上記のような副反応が出た場合には、すぐに獣医師へ報告+準備対応できるようにします。
輸血製剤の種類
輸血製剤には、
- 全血(新鮮全血、保存全血)
- 濃厚赤血球
- 血漿製剤(新鮮凍結血漿、凍結血漿、冷蔵血漿)
があります。
全血の場合、採血した血液はすぐに輸血に用いるか、室温であれば8時間以内は保存可能となります。
冷蔵でも保存可能であり、抗凝固薬によっては35日程度まで保存ができます。
ただし、温度調整が可能な大容量遠心装置と、適切な冷蔵庫および冷凍庫が必須となり、一部の動物病院でしか行うことはできません。
犬や猫においては、人と違って血液を保存しておく血液バンクなどの仕組みはほぼありません。
そのため、一般的には全血輸血を行うことが多いです。
ただし、上述の通り保存期間が短いため、すぐにドナーを用意しなければいけないというデメリットがあります。
動物病院によっては、あらかじめドナー犬猫を飼育しているところもありますが、協力してくれる飼い主さんを募集して輸血を行う動物病院も多いです。
まとめ
犬や猫においては、貧血や止血異常、低タンパク血漿などのときに輸血を考慮します。
救急の処置として、すぐに血液を供給できるメリットがありますが、リスクをともなう場合もあります。
輸血の副反応についても、しっかり理解するようにしましょう。