抗菌薬を使用するシーンは、動物医療において数えきれないほどあります。
臨床現場では、用途において抗菌薬を使い分ける必要があり、抗菌薬の分類やそれぞれの作用機序を理解することは、とても重要です。
『抗菌薬(抗菌性物質)』とは、細菌の発育を抑えたり、殺したりする物質のことを言います。
「抗菌薬の分類や作用機序」について愛玩動物看護師専門の当サイトが詳しく丁寧に解説していきます。
ご興味ある方はぜひ最後までご覧ください!
また、薬理作用と薬物動態の基礎をご覧になってない方はこちらも見てください!
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抗菌薬の分類
抗菌薬は分野によって定義が異なりますが、
- 化学的に合成された抗菌性物質である『合成抗菌剤』
- 微生物が産生し、他の微生物の発育を阻害する物質である『抗生物質』
に分類されます。
※現在、抗生物質は微生物の産生する物質をさらに化学変化させて作られており、厳密な定義ではありません。
それぞれにいくつかの系統があり、作用機序や効果のある細菌群が異なります。
臨床でよく用いられる薬剤について、以下で分けて説明していきます。
合成抗菌剤
合成抗菌剤は、大きく、
・フルオロキノロン系
・キノロン系
・チアンフェニコール系
に分類されます。
サルファ剤
サルファ剤は、抗菌スペクトルが広い(多くの細菌に抗菌効果を示す)ですが、静菌的作用を示す抗菌薬です。
※静菌的作用とは、細胞を死滅させずに増殖を抑える抗菌効果のこと。対:殺菌的作用。
細菌の細胞増殖に必須である葉酸合成過程における酵素の働きを阻害します。
原虫疾患にも有効なのがサルファ剤の特徴です。
作用部位によって、いわゆる『サルファ剤』と『葉酸拮抗薬』に分類されますが、両者はST合剤(スルファメトキサゾール、トリメトプリム)として併用することが多いです。
サルファ剤としては、サラゾスルファピリジンやスルファニルアミドが、葉酸拮抗薬としては、トリメトプリムやメトトレキサートなどがあります。
ニューキノロン系
細菌のDNA複製を阻害することで殺菌作用を示します。
広い抗菌スペクトルを持ち、組織移行も優れていますが、耐性菌の出現や医療分野での重要性を考慮しながら使用する必要があります。
濃度依存性のため、1日1回の投与が効果的です。
エンフロキサシン、オフロキサシンなどがあります。
抗生物質
抗生物質は、
- ペニシリン系
- アミノグリコシド系
- テトラサイクリン系
- マクロライド系
- セフェム系
- カルバペネム系
- クロラムフェニコール系
などに分けられます。
ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、ぺネム系といった薬剤は『βラクタム』という構造を持つため、『βラクタム系』とも呼ばれます。
βラクタム系は、βラクタマーゼによる薬剤耐性やアレルギー反応などのリスクを考慮する上で重要な分類です。
また、時間依存性の抗菌活性を持つため、1回投与量を増やすよりも投与回数を増やす必要があります。
ペニシリン系
細胞壁(ペプチドグリカン)を合成するトランスペプチターゼ阻害をすることで殺菌作用を示します。
グラム陽性菌に有効です。
代表薬として、ペニシリンやアンピシリン(一部のグラム陰性菌にも有効)があります。
アミノグリコシド系
細菌のリボソーム30Sと結合(50Sと結合するものもある)して、タンパク質合成を阻害する抗菌薬です。
※リボソームとはタンパク質の合成反応の中心的役割を持つ細胞小器官。
殺菌作用があり、代表薬としてカナマイシンやゲンタマイシンがあります。
経口投与での吸収がほとんどないため、消化器以外の感染症には注射投与が必要です。
テトラサイクリン系
細菌リボソーム30Sに結合してタンパク質の合成阻害をします。
静菌作用で真菌以外全てに抗菌活性があり、広域スペクトル抗菌性物質です。
テトラサイクリン、ドキシサイクリンなどがあります。
マクロライド系
細菌リボソーム50Sに結合してタンパク合成阻害をします。
グラム陽性菌の他、マイコプラズマにも効果を示します。
静菌作用で、エリスロマイシン、タイロシンなどがあります。
なお、マクロライド系はクロラムフェニコール系との併用は禁忌となっています。
セフェム系
ペニシリン系と同様、細胞壁(ペプチドグリカン)を合成するトランスペプチターゼ阻害をすることで殺菌作用を示します。
セフェム系は、
- 第一世代:セファレキシン、セファゾリンなど
- 第二世代:セフメタゾール、フロモキセフなど
- 第三世代:セフジニル、セフィキシムなど
- 第四世代:セフェピムなど
と、開発された時期により分類され、世代が上がるとグラム陰性菌に対する活性が強くなり、グラム陽性菌に対する活性が低くなる傾向にあります。
カルバペネム系
抗菌スペクトルが広く、緑膿菌にも有効です。
医療でも『切り札』として使用されることが多い系統です。
そのため安易な使用は禁忌であり、薬剤耐性についても考慮する必要があります。
イミペネムシラスタチン配合剤やドリペネムなどがあります。
クロラムフェニコール系
リボソーム50Sと結合してタンパク合成阻害をします。
静菌作用を持ち、産業動物への使用は認められていません。
その他の系統
その他の系統として、
・リンコマイシン系:グラム陽性菌と嫌気性菌に対して抗菌活性を持つため、歯科領域で用いられることが多い
・ホスホマイシン系:ホスホマイシンなど
・グリコペプチド系:バンコマイシン、テイコプラニンなど
・ポリペプチド系:コリスチン、ポリミキシンBなど
などといった抗生物質もあり、状況によって使用します
まとめ
「どういった場合にどの薬を、どれくらいの期間や間隔で使用するか?」を理解することは、動物医療に携わるためにはとても大切です。
薬剤ごとにしっかり理解をするようにしましょう。
・桃井康行,小動物の治療薬 第3版,文永堂出版,2020