急変した後で、「そういえば、あの時いつもと様子が違った・・」と振り返ったことはありますか?
誰しもが、全ての患者(動物)の異変を早急に察知できたら、、と思いますよね。
でも実は、犬猫の急変を事前に予測することは可能なんです。
その予測とは、「犬猫の救急サイン」を見逃さないということです。
代表的な救急サイン9つを愛玩動物看護師専門の当サイトが詳しく丁寧に解説していきますので、
動物看護師に必要な看護スキルを一緒に身に着けていきましょう。
救急サイン9つ
早速ですが、救急サイン9つを見ていきましょう。
①意識レベル低下
意識レベルは、「正常な時と比べて今がどのくらいぐったりしているか」を意味します。
少し硬く言うと、「患者(動物)の意識障害の程度をスケールを用いて表す指標」という医療用語です。
例えば、
正常時には尻尾振って、こちらに向かってきているなら100%で、
尻尾が垂れ下がってあまり動こうとしないなら70%、
横臥位の状態で顔も上げようとしないなら30%。
のように、正常時との違いを比べた評価方法となります。
動物は声を発したり、主張したりしないので、今がどのくらい調子悪いのかに気づかなければなりません。
この意識レベルの変化がとても重要で、詳しくは最後のほうで解説しますが、急変する前には必ず意識レベルの変化が起きます。
ちなみに、ヒト医療で用いられている意識レベルを評価するGCSなどについては、
下記の記事をご参考になさってください。
②立てない・ふらつき
ふらついたり、立つことが出来ないというのは、救急の可能性が高いです。
立つという基本動作のエネルギーすらない、つまりは体の中でよっぽどのことが起きているということです。
立てない・ふらつきだからといってすぐに呼吸停止するということは少ないと思いますが、急変に備える必要はあります。
例えば、入院中の動物が昨日までは歩行や起立が出来ていたにも関わらず、
今朝はふらついたり、立つことが出来ないという場合は、症状が進行していたり、何か別の原因でさらに状態が悪くなっている可能性もあります。
看護をしていてこの変化に気づいたら、すぐに獣医師へ報告した方が良いでしょう。
③頻回嘔吐
犬や猫では、毛づくろいなどで嘔吐することは珍しくはありませんが、頻回嘔吐となると話は別です。
例えば、命に関わる病気の一つに「急性膵炎」というのがあります。
ちなみに急性膵炎は、膵臓や膵臓周囲の器官が激しい炎症を起こしている状態で、場合によっては命に関わる病気です。
急性膵炎の症状で典型的なのは激しい嘔吐ですが、腹部痛や食欲不振、沈鬱などの症状もあります。
ただ、頻回嘔吐という症状だけでも警戒する必要はあります。
バイタルや意識レベルと合わせて考えましょう。
④喀血
喀血は、呼吸不全を引き起こす可能性がある救急サインの一つです。
そもそも、喀血とは「肺や気管支から出血し口から血を吐き出す」ことです。
喀血のように口から血を吐く症状で「吐血」というのがあります。
吐血は「胃・十二指腸」などの消化管から起こります。
いずれも、通常では出ない血液が口から出てしまうわけなので、すぐに先生へ報告したほうが良いでしょう。
⑤呼吸促拍
呼吸の異常というのは、救急度が高くなります。
体は酸素が無いと生きていけませんから、酸素が吸いにくいもしくは吸えない状態が続くというのは、
死を意味します。
呼吸促拍は呼吸数が増えるということですが、呼吸数が増えるということはそれだけ酸素を吸いたいということです。
つまり、何かしらの原因で「酸素が吸えない」か「酸素が足りない状態」になっている可能性があります。
場合によっては、直ちに検査や処置を行う必要があるので要注意です。
バイタルサインの一つ呼吸についてはこちらもご参考にしてください。
⑥開口呼吸
呼吸促拍と同様に呼吸の異常なので救急度は高いです。
開口呼吸は、呼吸促拍と一緒に起こることが多く、酸素をより体に取り入れようとする動作になります。
開口呼吸というのは、口を大きく開けて息を吸うことですから、より必死に酸素を吸おうとしているということです。
この時点でかなり状態が悪い可能性もあるので、早急に獣医師へ報告しましょう。
ちなみに、犬と猫の開口呼吸では大きな違いがあります。
<猫の開口呼吸について>
皆さんもご存じの通り、猫が口呼吸することは基本的にありません。
そんな猫が開口呼吸をしているとなると、かなり必死に酸素を吸おうとしている証拠です。
つまり、何かしらの原因によって通常の呼吸では酸素が足りないということですから、救急サインとして必ず覚えておきましょう。
補足として、健康状態でも開口呼吸をする場合がありますが、呼吸促拍や意識レベルなど他のバイタルと合わせてモニタリングしましょう。
⑦排尿困難
特に猫で多い排尿困難ですが、これも大変救急なサインの一つになります。
もし2~3日排尿できないとすると、通常は外に排泄される老廃物が体の中に蓄積されているということなので、腎臓の状態によっては命を落とす可能性もあります。
ちなみに、結石で尿管閉塞した場合どのような状態になるのかイメージしてみるとこんな流れです。
「尿管で結石が詰まる⇒尿で腎盂拡張が起こる⇒腎血流が悪くなる⇒腎障害」
一度悪くなった腎臓は回復することが出来ないので、すぐに適切な処置が必要です。
⑧5分以上の発作
通常、発作は長くても数分以内で止まりますが、5分以上続く場合は重責発作となります。
重責発作とは、「発作が長く続く、短い発作が繰り返し起きる」ことを言います。
重責発作の状態が長く続くと、意識が戻らなかったり、脳に必要な酸素が行かなかったりと、
命に関わる可能性が大いにあります。
直ちに処置が必要な場合が多いので、飼い主さんからの電話や入院時の発作には注意しましょう。
ちなみに、発作とてんかんの違いについて少しお話ししておきます。
<発作とてんかんの違いについて>
発作とてんかんの違いは、簡単に言うとこうです。
【発作】:脳の異常、感覚異常、自律神経異常、外傷などによるもの
【てんかん】:脳の構造異常によるもの
つまり、発作は脳腫瘍が原因かもしれないし、低血糖などの脳以外の影響で起きているかもしれないということです。
てんかんは脳の構造異常なので、脳腫瘍や脳梗塞、水頭症など脳の異常が原因で起きている発作ということです。
てんかんと言うためには「診断」されている必要があるので、発作が起きたときにもし診断されていなければあくまでも「発作」です。
獣医師に報告するときは間違えないように正しく伝えましょう。
⑨落下・交通事故
犬や猫での落下や交通事故は、相手が「自転車 or 車」の違いに関係なく救急として対応します。
小動物はヒトと違い体重が数キロしかないので、ぶつかった体には高エネルギーの力が加わります。
見た目は何とも無くても、内部で損傷が起こっている可能性もあり、直ちに検査や処置をする必要があります。
今すぐ命に関わるかは衝撃度合いによりますが、脊髄損傷など目には見えないところで起きていると、今後のQOLにも影響してきます。
救急は頭と五感を使おう
救急サイン9つには考えられる病気というのがいくつかあります。
例えば、
項目 | 疾患 |
---|---|
①意識レベル低下 | 心血管系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、神経系、整形系の疾患など |
②立てないふらつき | 重度MR、IMHA、DIC、気管虚脱、喉頭麻痺、GDV、急性膵炎、IVDD、脳腫瘍など |
③頻回嘔吐 | IBD、消化管型リンパ腫、FelV、腸閉塞、異物誤飲、膵炎、肝胆道系疾患、バセドウ病など |
④喀血 | 気管支拡張症、気管支炎、肺炎、腫瘍、肺水腫、敗血症、心不全、凝固異常、気道内異物など |
⑤呼吸促拍 | 鼻腔狭窄、喉頭疾患、気管支疾患、腫瘍、肺水腫、肺血栓症、気胸、横隔膜ヘルニアなど |
⑥開口呼吸 | 心タンポナーデ、肺炎、気胸、熱中症、鼻腔腫瘍、外傷、喉頭痙攣、虚脱、横隔膜麻痺など |
⑦排尿困難 | 細菌性膀胱炎、前立腺腫瘍、扁平上皮癌、膀胱破裂、尿道狭窄、尿管結石、尿道結石など |
⑧5分以上の発作 | 脳炎、髄膜炎、脳症、脳腫瘍、脳梗塞、外傷、低血糖、低Na血症、高NH3血症など |
⑨落下・交通事故 | 心血管系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、神経系、整形系、皮膚系、リンパ系の疾患など |
これらのほかにまだ書ききれないほどの疾患がありますが、何が原因で起きているかということを全力で考えるのは、そもそも私たち動物看護師の仕事ではありません。
繰り返しになりますが、「診断・処方・処置」以外のすべてが動物看護師の仕事になります。
つまり原因を特定する、診断というのは獣医師のみが出来る内容ですから、
それよりも五感を使って、救急サインにいち早く気づくということを最優先するのが動物看護師の本質なんです。
意識レベルの変化が一番重要
例えば、心拍数が120から180bpmになった。血圧が平均90から60mmHgになった。
という数値の変化も大切なのですが、それに伴って患者(動物)がどのように状態変化したのかが
とても重要になります。
なぜかと言うと、急変して死ぬときは必ず「立位⇒犬座⇒横臥位⇒起立不能⇒反応なし」となるからです。
一緒にイメージしてもらいたいのですが、死ぬ直前ってどのような状態だと思います?
アニメのキャラクターのように起立したまま死にますか?それとも、犬座のままで呼吸が止まりますか?
そうではないですよね。横になった状態で動かなくなり、呼吸も弱くなって、最後に呼吸と心臓がとまって死ぬんですよね。
このような状態変化は、検査した数字だけでは分からないことがあります。
ですから、患者(動物)に一番接している時間が長い動物看護師が、そのささいな意識レベルの変化に気づく必要があるのです。
救急サイン9つこそが、意識レベルの変化になります。
余談ですが、急変するのはなにも動物病院だけではないです。
道路や自宅で起きる可能性はありますが、その時に心電計、血圧計、サチュレーションなどはありません。
そうなると、バイタル情報が一切手に入らないかというとそうではないです。五感を使ってバイタル情報を取得します。
例えば、「股脈を蝕知する、足根部の脈を蝕知する、可視粘膜を確認する、気道内異物が無いか見る、顎緊張で意識レベルを確認する、眼瞼反射を確認する」など医療機器が無くても出来ることはあります。
常日ごろから五感を使った看護を意識することが非常に大切です。
まとめ
犬猫の救急サインは9つあります。
- 意識レベル低下
- 立てない・ふらつき
- 頻回嘔吐
- 喀血
- 呼吸促拍
- 開口呼吸
- 排尿困難
- 5分以上の発作
- 落下・交通事故
これらは急変する可能性が高く、すぐに処置をしないといけない場合もあります。
意識レベルの変化に気づいたらすぐに獣医師へ報告します。
また、日ごろから動物の些細な変化が分かるように五感を使って看護するようにしましょう。
コメント
コメント一覧 (1件)
初めまして。
もうすぐ2年目になる動物看護師です。
いつも見させて頂いています。
私の動物病院では救急外来が少ないのであまり経験できず、いざというときに準備ができません。
エマージェンシー時に必要な薬剤や用意しないといけない物などを教えて頂ければと思います。
宜しくお願いいたします。