動物看護師として、犬や猫の妊娠・分娩に遭遇する機会はしばしばあると思います。
その際に、迷わず適切な対応をできるよう、その過程やしくみを知っておくことは重要です。
ただ、犬や猫の妊娠や分娩に関する知識について、
・妊娠期間ってどれくらい?
・帝王切開をする場合とは?
などの疑問もあると思われます。
この記事では、犬や猫の発情や妊娠、分娩について愛玩動物看護師専門の当サイトが詳しく丁寧に解説しています。
トラブルがつきまとう『出産』に関して、知識をつけて「いざ!」というときに対応ができるようになるために、ぜひ読んでみてください。
発情兆候と発情の時期
犬と猫の発情期には、独特の発情兆候がみられます。
例えば、
- 大きな声で鳴く
- マウンティングする
- すり寄ってくる
といったことがよくみられます。
また、陰部が膨らみ、よく舐めたり、頻尿になったりすることもあります。
犬においては『発情出血』が特徴的で、発情前期には血中エストロジェンの上昇により出血が見られます。
猫では発情による出血はみられません。
発情の時期については、犬では季節性はありませんが、猫においては長日繁殖(春ごろに繁殖活動を開始する)となります。
ただし、現在では完全室内飼いの猫も増えてきており、夜間照明のために周年繁殖性を示すことが多いです。
また、猫は交尾排卵動物といい、交尾をしたら排卵するしくみになっています。
それゆえ、妊娠率は100%に近くなる傾向にあります。
排卵数は犬猫ともに、数個~10個程度となっており、犬では発情開始から48~60時間後、猫では1.5日後に排卵をされます。
着床について
交尾をした場合に、オスの精子は膣から子宮を通り、メスの卵管内まで泳いでいき、受精が行われます。
無事に受精を完了した受精卵は、子宮に向かって下降を開始します。
子宮に着床する時期には個体差がありますが、交尾から20日を過ぎるころには完了します。
犬や猫の妊娠期間
犬や猫の妊娠期間は約2ヶ月(63日前後)程度で、
- 品種
- 系統
- 経産
- 未経産
によっても異なります。
妊娠期間中には、様々な症状が現れます。
これは、人における『つわり』の症状と同様です。
「食欲不振や吐き気、味覚の変化」によって今まで食べていたものを食べなくなる…といったことが多いです。
ただ、こういった妊娠の症状には個体差があり、全く症状を示さない場合もあります。
偽妊娠
犬においては、妊娠が成立していないのにも関わらず、妊娠犬と変わらない乳腺の発達がみられることがあります。
乳汁が出たり、巣作り行動がみられたりと、あたかも妊娠をしているような状態であり、『偽妊娠』と言われます。
一方、猫では偽妊娠はめったに見られず、乳腺の発育など臨床的な変化はありません。
妊娠判定の方法とは?いつ行う?
人においては尿検査や血液検査にて行いますが、犬や猫においては症状によって判断します。
つまり、
- 妊娠による乳腺の張り
- お腹が目立ち始める
- 外陰部からのおりもの
などで判定します。
妊娠約4~5週になると動物病院でのエコー検査にて胎囊(たいのう)を観察することができるようになります。
この時期における胎子の数の確認は、分娩をスムーズに行うためにも重要です。
分娩について
分娩の第一ステージにおいては、直腸温度の低下がみられます。
母親の行動の変化として、
食欲低下や消失がみられたり、人懐っこくなるといった行動がみられる場合もあります。
次なる分娩の第二ステージになると、いよいよ分娩期となります。
破水が生じると、腹部の強い緊張が見られ(努責)、母親は鳴き続けたり、陰部や身体を異常に舐めたりと、明らかな行動の変化が見られます。
強い陣痛がみられてから、およそ2,3時間以内に胎子が娩出されます。
そうではない場合には、難産として動物病院にて対応するようになります。
妊娠56日頃に分娩してしまうことを早産といい、分娩後の管理が適正であればそのまま育つことも可能です。
帝王切開をする場合とは?
難産であると判断した場合には、用手の介助にて娩出を試みる場合もありますが、帝王切開にて対応することが多いです。
可能な限り浅い麻酔を行い、適切な手術を行う必要があります。
また、65日以上になっても分娩に入らない場合は遅産といい、母体の子宮の中で大きくなりすぎて難産になることもあるため、動物病院での介入が必要となります。
まとめ
出産や帝王切開は、緊急で来院されることも多く、急な対応が必要となります。
前もって流れや処置などを勉強しておき、スムーズな補助ができるようにしておきましょう!
・辻本元,小山秀一,大草潔,中村篤史,猫の治療ガイド,EDWARDPress,2020
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